撮り鉄趣味で送検の憂き目を見た国会議員

 
 

※不肖筆者には「撮り鉄」の趣味はないのだが…
 
冒頭の写真は随分前に最後に新幹線に乗った時に何気なく撮影したものである。不肖筆者は「撮り鉄」と言った趣味の持ち主ではないのだが、今回の様なブログ記事を書く際に意外な形で役に立ってくれた。人間、何がどこで役立つか判らぬものである。
 
さて、今回のテーマは
 
撮り鉄国会議員が軽犯罪法違反容疑で書類送検
 
と言う事だが、当該議員は共産党の山添拓。本人もTwitterで事実関係を認めているが、不可解な事も感じられるのではないだろうか?
今回山添拓にかけられた容疑は軽犯罪法違反。条文は以下の通りだ。

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※全文掲載はちと長かったか。
 
該当するのは
 
<三十二 入ることを禁じた場所又は他人の田畑に正当な理由がなくて入つた者>
 
であろう。線路内は当然の如く「立入禁止」なのは論を待たない。
 

 ※本人も事実関係は認めている。

 

本人も事実関係を認めており、それを前提にすると、渡ったのは「勝手踏切」と呼ばれる場所の様である。記事によると当日に帰宅しようとして現場を離れた際に警察から「軽犯罪法違反に該当する」と指摘されていたとの事なので、現場付近に警察官が居て、現場を目視確認されていたのだろう。そして本人が、と言うよりこの現場でそういう「撮り鉄」による線路侵入が常習的に多発だったので警察も重点的に張り込んで監視している場所だったのだろう。いずれにしても「線路内は立入禁止」と言うのは常識であり、幾ら「撮り鉄」として良い写真が撮りたいとは言え、遵法意識のなさを指摘する批判は免れない。

 

軽犯罪法違反は「拘留または科料」と言う罰則なので山添拓がこの件での軽犯罪法違反での有罪が確定しても国会議員を自動失職する事はない。「現職国会議員が拘留」とは恥ずかしい限りの話なのでそうなって尚、議員を続ける度胸があるのかは別の話だが、本人の弁によると「1秒程で渡った」と言う。それを前提にすると「罰する程の事なのか?」と言う疑問を持つ方も居るだろう。その答えは以下の裁判例によって考えが既に出ている。

 

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※「一厘」は「一円」の千分の一の通貨単位。
 
この事件は明治42年11月、煙草農家の男が栽培、乾燥していた煙草葉を失敬して自分で吸った所、「葉煙草専売法違反(不納付)」容疑で起訴された一件である。しかし、男が失敬したのは僅か2g程で、当時の相場で「最低通貨単位である一厘」の7割程の量に過ぎなかった。それでも「法律違反である事に変わりはない」と、検事はこの男を訴追した。
 
裁判では一審では「違法だが微罪である」として無罪判決を出したが、検事が控訴して二審では「罰金10円」の有罪判決となった。被害額の1万倍(!)もの罰金である。流石にこの判決には法曹界から「罰が苛烈過ぎる」と批判の声が上がり、男の弁護に立ち上がり、最終的に大審院
 
「人類非行ハ零細ナルモノハ悪性ノ特ニ認ムベキモノナキ限リハ其人生ニ及ボス害悪極メテ僅少ナルヲ常態トスル所ナリ」
 
つまり、
 
違法な行為であったとしても実害がほとんどなく微細な所為であれば罪には問えない」
 
と、言う無罪判決が確定しており、この考え方は今でも通用するものとなっている。
 

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※国会議員だった事が運のつき。
 
山添拓の場合はどうか?法律の文面で判断すれば本人の行動は明らかに違法である。だが、本人の弁を前提にしてもその時間は1秒程で、しかもそれによって列車の往来が妨げられる、他者に危険が及ぶ、と言った実害と呼べるものは発生している様には思えない。で、あれば先述した「一厘事件」同様、例えこの件で山添拓が起訴されても有罪判決が出る公算は極めて低い事になる。では何故わざわざ書類送検し、その事実を公表する事態になっているのか?
 
書類送検されている」と言う事実から「微罪処分」でない事は明らかである。「微罪処分」とは簡単に言うと警察の権限で送検せずに「起訴猶予相当」に該当する軽微な事件のカタを付ける事で、その基準は非公開であるものの、極めて少額の万引きや横領、賭博、偶発的に発生した暴行等がそれに該当するケースが多いらしい。基準は各都道府県の地検によって異なり、また該当者が初犯か否かや素行不良者かどうか、犯状や再犯の可能性、被害回復がされているか?被害者と示談が出来ているか?等の要素で異なる模様だが、それでも「前歴」が付く事はあるらしいから例え微罪であっても違法行為は行わないに限る。
 
要するに警察としては「目の前で行われた違法行為を見過ごす事は出来ない」「だが、微罪処分出来る案件ではなかったので送検する以外の選択肢がなかった」と言う所なのだろう。山添拓に限らず、各地で「撮り鉄」のマナーの悪さやそれに起因する事件などが多発し、そういう記事も多くなって来ているご時世だ。偶々その現場を押さえられたのがよりによって「国会議員の山添拓だった」と言う事で、本人からすれば「運が悪かった」どころの騒ぎではないが、これは明らかに「国会議員として」やった事ではない。が、その立場として言い方は悪いが「スケープゴート」として扱われたのだろう。国会議員は「全国民の代表」なのだからそういう責任はあって当然である。要するに全国的な問題となっている「撮り鉄のマナーの悪さ」などの問題に「一罰百戒」の意を込めて「国会議員であっても例外はない」と言う警察からの警告である、と言う事だ。で、あれば山添拓が共産党の議員である、と言う事は一切関係ない。やったのが仮に自民党でも公明党でも、立憲民主党でも話は同じとなるだろう。共産党の肩を持つ訳ではないが、総選挙を控えて「共産党のイメージダウンを狙った国策捜査」とか言うのは陰謀論に等しいのではないだろうか?それなら任意同行を求めるとか、もっと迅速に事件処理している筈だ。事件があったのは昨年の11月3日。警察もコロナ禍やオリンピックなどでタイミングを失っていたのか?それともシルバーウィークに合わせて(と、言うかそこしかタイミングがなくなって)送検したのか?いずれにしても「有罪とすべき」案件として処理している様には思えないし、慎重に捜査する様な事でもない。

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※「現職国会議員の送検」と言うニュースのインパクトは大きい。
 
最終的な起訴の是非の判断は埼玉地検だが、恐らく内容的に「不起訴」か「起訴猶予」となるだろう。だが、だからと言ってそれで一件落着とはいかない。仮に起訴されれば事実関係は本人も認めているので争いはなく、有罪となるが、「拘留」となると「1日以上30日未満」の間、塀の中へ入れられる事になる。厄介なのは拘留には「執行猶予が付かない」ので「問答無用の実刑判決」となる事だ。現職国会議員でこれはみっともない事この上ない。「科料」は「千円以上一万円未満」と、国会議員の収入からすればどうと言う事のない金額納付だが、それでも容赦なく前科は付くので、「科料だからいいや」とはならない。勿論国会議員を自動失職する事は拘留でも科料でもないが、「国民の代表」としてはそれは相応しくなく、規則上はさておき、道義上の問題が出てくる。案件としては公平に見れば「即座に議員辞職すべき案件」とまでは言えないレベルなので「山添拓は議員辞職すべき」とまでは言わないが、「国会議員としての道義上の責任」は例え不起訴(または起訴猶予)でも消えない。それを踏まえて出処進退をどうするのかは本人が決めるべきである事は言うまでもない。Twitterでの本人からの説明はあるので「説明責任を果たしていない」とまではならないが、それで「道義上の責任にケリを付けた」とまでは言えない。そこまでやって始めて「国会議員としての責任を果たした」と言える様になる。同じ事は共産党自身にも言える。ここまで報道されてしまっては「知らぬ存ぜぬ」は通用しない。公党を自認するなら山添拓に対してキチンと道義上の責任は問わなくてはならない。それが「国民に対する責任」であり、それなくして他党、特に自民党を批判する資格はない。さて、本人や共産党はどうするか?その後の成り行きには注目である。