原発より厄介な「もんじゅ」の取扱い

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※「もんじゅ廃炉も現実味を帯びてきた。

政府は21日、官邸で原子力関係閣僚会議を開き、高速増殖炉もんじゅ」の廃炉を含めた抜本的な見直しを行う方針を確認した。もんじゅ廃止の正式決定は地元への配慮から先送りした形だが、年内に結論を出す方針だ。一方、核燃料サイクル政策は今後も堅持するとして、政府内に「高速炉開発会議」を新設し、年内に高速炉開発方針案を策定する、と言う。
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http://www.sankei.com/politics/news/160921/plt1609210033-n1.html
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※「もんじゅ」の構造。軽水炉より複雑だ。

完成直後は「夢の原子炉」などともてはやされた「もんじゅ」だが、直後に起きたナトリウム漏れ事故やそれを隠蔽した体質、更に膨大な器具の点検漏れ等、問題がありすぎた。

もんじゅ」は原発に通常使われる軽水炉とは異なり、消費される核燃料よりも新たに生成される核燃料の方が多い、と言う特徴を持つ。また中性子を利用せず、高速中性子をそのまま利用するため減速材が不要である。高速増殖炉」と言うネーミングはこの特徴に由来する。
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Mox燃料の解説
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※因みに「プルサーマル」はこの様なリサイクル。

また、核燃料もMox燃料と呼ばれるウラン238核分裂を起こさない)とプルトニウム239、そして起動用に核分裂を起こすウラン235を少量混ぜた物が使用される。これらの原料は主に原発の使用済み核燃料が原料になるため、核燃料の有効活用、またプルトニウム半減期2万4千年)の処理が可能な為、放射性廃棄物処理の時間短縮、廃棄した核兵器の処理にも貢献出来る、と言うメリットが考えられる。

また、冷却材に水ではなく金属ナトリウムを用いるので圧力をかけなくても800度以上にならないと沸騰しないので扱いやすい、Na23は中性子を吸収し放射化されNa22(半減期 2.6年)とNa24(半減期 15時間)に変化するが、何れも半減期が短いため炉停止後の被爆量を増加させない比重が水と同程度なので、水と同様にポンプで循環可能、と言うメリットもある。更にもんじゅ」においては3系統ある冷却系のうち、2系統が故障してしまった場合でも1系統のみで炉心の崩壊熱を除去し冷却する事ができる。また循環ポンプなどの電源を全て失う、福島第一原発で起きた様な全電源喪失が起きて循環ポンプが全て停止しても3系統の冷却系にてナトリウムの自然循環と空気冷却器により崩壊熱の除去が可能とされている。しかし、そのナトリウムの管理が難しい事、原子炉自体の設計も軽水炉より複雑になる。またもんじゅ」はナトリウムの性質上(水と反応してしまう)緊急炉心冷却装置が付けられない、更に最悪の全炉心溶融事故を起こした場合、軽水炉と異なり、炉心のプルトニウム燃料が一箇所に集まることで即発臨界が発生する可能性がある、等の危険性も持ち合わせている。メリットは大きいが、リスクも大きいのだ。

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※「もんじゅ」の経歴。ろくなもんじゃない。

しかしもんじゅ」では平成7年にその冷却材であるナトリウム洩れ事故を起こしている。事故レベルは1だったが、現場を撮影したビデオは意図的なカットを施した隠蔽体質が批判を浴びた。22年8月には原子炉容器内に燃料交換機が落下しそれ以来停止したままである。しかももんじゅ」には2012年に保安規定に基づく機器の点検漏れが9679個(!)発覚、更に翌年非常用発電機などの重要機器で13の点検漏れ、虚偽報告が発覚したため流石に原子力規制委員会日本原子力研究開発機構に対し、原子炉等規制法に基づき、再発防止に向けた安全管理体制の再構築ができるまで「もんじゅ」の無期限の運転禁止を命じたのだ。そして昨年11月に日本原子力研究開発機構に「もんじゅ」の運転を任せるのは不適当だとして、日本原子力研究開発機構に代わる運営主体を明示するよう文部科学大臣に勧告した、と言う経緯がある。要するにコンセプトは有用でもそれを実現できる人や組織に恵まれなかった、とも言えそうだ。
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※しかし核燃料サイクルは必要であるというジレンマ…

会議で示された高速炉研究開発については、フランスの高速炉「ASTRID(アストリッド)」で日仏共同研究を中心に進める案が浮上している。ただ、会議後、世耕経産相

「ASTRIDのみに頼る訳ではなく、研究炉「常陽」(茨城県大洗町)も再稼働していく」

と述べた。

関係閣僚会議後、松野文科相は記者団に

「地元に対して申し訳ないと思っている」

と陳謝した。21日夜には福井県庁で西川一誠知事と面会。西川氏は

「今まで説明がないまま方針が示され無責任極まりない。誠に遺憾だ」

と抗議したと言う。
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※地元の説得は難航しそうだ。

一度原発を動かしている以上使用済み核燃料の処理問題は避けては通れない。そういう観点からは核燃料サイクルは必要だ。「もんじゅ」もその選択肢の一つであった。使用済み核燃料は冷却するだけして地中深く埋めれば良い、という簡単な問題ではないのであるが、「もんじゅ」は開発に1兆円を投資し、維持費は年間200億円、それでいてまともに稼働させられなかったのだから「失敗」と言うよりないが、廃炉するにしても事故を起こしたナトリウムの処理は未だに技術が確立されていないのである。廃炉も道筋が見えない。新たな高速増殖炉を作るにしても「もんじゅ」の二の舞では話にならない。この問題、結論がどうあれ課題山積みで原発再稼働より厄介な問題なのである。
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※国民的議論が必要だが、知識のハードルも高い。