アメリカの病巣
元々はこの地にある南北戦争時の南軍司令官だった「ロバート・E・リー」の銅像の撤去の是非を巡る対立だった。4月にシャーロッツビル市議会が銅像の撤去及び銅像のある公園の改称を決めたのだが、これにKKKなどの白人至上主義団体が反発、その抗議活動の一環としてデモを行っていた、と言う事らしい。
しかし、この様な「明らかな人種差別」を主張する団体の活動を黙って見過ごす事はなく、反対派もカウンターデモを行い、そのまま暴力による衝突へと発展した、と言うのが大まかな事件の経緯である。
上記の動画にあるように白人至上主義者団体側が反対派に
「車で突っ込む」
と言う暴挙まで発生し、死者まで出る事態となってしまった。
…事件を受けてトランプ大統領は
「憎悪や偏見、暴力を最も強い言葉で非難する」
と、声明を出したものの、非難の対象を
「事件に関係する『各方面』を非難する」
と、したため、
「大統領、悪は名指ししなくてはなりません。連中は白人至上主義者で、これは国内テロリズムでした」
と、白人至上主義者を「名指しで非難しなかった」事を非難され、ホワイトハウスが
と、釈明の声明を出したものの、それでもトランプへの非難は止むことはなく、結局
と、発言の修正を余儀なくされた。尤もこの件、先に暴力に訴えたのは「リベラル側」と言う話もあるだけにもしトランプがそれを踏まえた上で「白人至上主義者」を「名指しで非難しなかった」のであれば最初のトランプの発言は「妥当なもの」と受け止める事も可能なのだが…
非常事態宣言が出され、テリー・マコーリフ州知事は
「今日シャーロッツビルに入ってきた白人至上主義者やナチスに伝えたい。我々のメッセージは単純で簡単だ。『帰れ』。この偉大な州はお前たちを歓迎しない。恥を知れ。お前たちは愛国者のふりをするが、お前たちは愛国者とは程遠い」
「お前たちは今日、他人を傷つけようとやってきて、実際に人を傷つけた。しかし私のメッセージははっきりしている。我々はお前たちより強い」
と、非常に強い言葉で白人至上主義者団体を非難した。
…勿論「人種差別」も「暴力」も許されるものではない事は論を待たない。しかも現地警察の発表によればこの団体のデモは
「無許可で違法」
なものだった、と言うから更に始末に負えない。
発端となった「ロバート・E・リー」の銅像撤去計画だが、どうやら
「南軍支持=白人至上主義」
と言った具合に受け止められている様で、そういう観点から見ればリーの銅像は
「人種差別の象徴」
とでも捉えられているのだろう。裏を返せば白人至上主義者からは
「自分達の主張の象徴」
となるだろう。南北戦争を
「奴隷制(=人種差別)の是非を巡る戦争」
と、解釈するならそういう「対立の構図」も理解出来なくもないが、実際はそんな「単純なもの」ではない。
リンカーンは確かに「奴隷解放宣言」を行って「奴隷」の扱いを受けていた黒人はその立場から解放された。しかし、余り知られていない様だが、リンカーンこそがインディアンに対する最悪の迫害者でもあった。リンカーンは黒人への差別を解消したが同時にインディアンを「徹底的に差別していた」のである。またロバート・E・リーは南軍の将軍でありながら「奴隷制には反対の立場」だった。南北戦争開戦前には
「南部にいる奴隷すべてを私の所有にできればいいのに。そうすれば戦争を避けるために、彼らをすべて自由人として解放してやれるんだが」
とまで述べていた、とも言われている。リーの銅像が「人種差別の象徴」でも「白人至上主義の象徴」でもない事は間違いないだろう。
リーは戦後に恩赦され、1870年に亡くなった。市民権を回復したのは死後105年も経った1975年の事だが、リーの名前に因んだ「M3中戦車『ジェネラル・リー』」の様に「南軍の将軍だった」からと言って蔑まれる事もなかった。考えようによってはリーの様な人物をアメリカが「国として」讃える事は
「一つのアメリカ」
の象徴だとも解釈出来るのではないだろうか?
…保守にしてもリベラルにしてもこの事件を見る限り「相手に対する寛容さ」に欠けている、と言わざるを得ないだろう。トランプはアメリカをどうするのか?大統領としてその器量が問われる事になる。