自衛権の範囲の変遷

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国会で集団的自衛権行使容認に関する質疑も行われている。

現在の政府解釈では集団的自衛権は「保持しているが行使出来ない。」だが、安倍内閣はこの解釈を変更しようとしている。

勿論護憲派野党は反対しているし、公明党も慎重姿勢だとされている。閣議決定解釈改憲とは如何なものかという疑問もあるが、それはともかく反対理由に「今まで出来ないと解釈してきたものをどうやって正反対の解釈が出来るのか?」と、言うのがある。

文面通りなら確かにそうだ。憲法9条の条文は全く変わっていないのだから。

日本国憲法第九条  
○1 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
○2  前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない

…少なくとも文面通りの解釈ならば自衛隊だって存在出来ない事になる。しかし現実に自衛隊が存在し、(個別)自衛権は保持して行使可能と解釈されている。ここで以下に過去の国会答弁や閣議決定等でどの様に政府の解釈が変遷していたかご覧頂きたい。(答弁は筆者の独断と偏見で選定しており、これら以外にも憲法9条に関する政府解釈が示された例はあります。筆者注)

1946年(昭和21年)6月衆議院での吉田茂首相の答弁
戦争放棄ニ関スル本案ノ規定ハ,直接ニハ自衛権ヲ否定シテハ居(お)リマセヌガ,第9条第2項ニ於(おい)テー切ノ軍備ト国ノ交戦権ヲ認メナイ結果,自衛権ノ発動トシテノ戦争モ,又交戦権モ放棄シタモノデアリマス。従来近年ノ戦争ハ多ク自衛権ノ名ニ於テ戦ハレタノデアリマス。…故ニ我ガ国ニ於テハ如何(いか)ナル名儀ヲ以テシテモ交戦権ハ先ヅ第一自(みずか)ラ進ンデ放棄スル。…世界ノ平和確立ニ貢献スル決意ヲ先ゾ此(こ)ノ憲法ニ於テ表明シタイト思フノデアリマス。」
      
1954年(昭和29)12月22日
自衛隊の合憲性=自衛権の存在
鳩山内閣の統一見解;衆・予算委大村防衛庁長官答弁)
 ア 憲法は、自衛権を否定していない。
自衛権は、国が独立国である以上、その国が当然に保有する権利である。憲法はこれを否定していない。したがって、現行憲法の下で、わが国が、自衛権を持っていることは、極めて明白である。
イ 憲法は、戦争を放棄したが、自衛のための抗争は放棄していない。
 武力の行使が放棄されるのは、「国際紛争を解決する手段としては」ということである。
 外国から武力攻撃があった場合に、武力攻撃そのものを阻止することは、自己防衛そのものであって、国際紛争を解決することとは本質が違う。したがって、自国に対して武力攻撃が加えられた場合に国土を防衛する手段として武力を行使することは、憲法に違反しない。

1956年(昭和31)2月29日
敵基地攻撃と自衛権の範囲に関する政府統一見解
衆議院・内閣委員会;鳩山総理答弁船田防衛庁長官代読)
 わが国に対して急迫不正の侵害が行われ、その侵害の手段としてわが国土に対し、誘導弾等による攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とするところだというふうには、どうしても考えられないと思うのです。そういう場合には、そのような攻撃を防ぐのに万やむを得ない必要最小限度の措置をとること、例えば、誘導弾等による攻撃を防御するのに、他の手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能であるというべきものと思います。

1967年(昭和42)3月31日
自衛力の限界(自衛隊増強の限度)
参議院予算委員会;佐藤総理答弁)
 ……わが国が持ち得る自衛力、これは他国に対して侵略的脅威を与えない、侵略的な脅威を与えるようなものであってはならないのであります。これは、いま自衛隊の自衛力の限度だ。……ただいま言われますように、だんだん強くなっております。これはまたいろいろ武器等におきましても、地域的な通常兵器による侵略と申しましても、いろいろその方の力が強くなってきておりますから、それは、これに対応し得る抑圧力、そのためには私の方も整備していかなければならぬ。かように思っておりますがその問題とは違って、憲法が許しておりますものは、他国に対し侵略的な脅威を与えない。こういうことで、はっきり限度がおわかりいただけるだろうと思います。


1980年(昭和55)12月5日
 自衛隊と戦力
衆議院森清議員の質問主意書に対する政府答弁書
 憲法第9条第2項の「前項の目的を達するため」という言葉は、同条第1項全体の趣旨、すなわち、同項では国際紛争を解決する手段としての戦争、武力による威嚇、武力の行使を放棄しているが、自衛権は否定されておらず、自衛のための必要最小限度の武力の行使は認められているということを受けていると解している。
 したがって、同条第2項は「戦力」の保持を禁止しているが、このことは、自衛のための必要最小限度の実力を保持することまで禁止する趣旨のものではなく、これを超える実力を保持することを禁止する趣旨のものであると解している。

…ご覧頂いた様に政府解釈が変遷しているのは明らかである。
最初の吉田茂首相(当時)の答弁ではさながら無抵抗主義であるが、そこから10年で敵基地攻撃まで言及している。野党の言う「現在出来ないと解釈しているものを出来る」と、限定的ながら変化させている。今に始まった話ではない。

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※無抵抗主義が悪いとは言わないが通用しない相手もいる。それを見誤った悲劇。


更に参議院ではこんな決議もあったのだ。

自衛隊の海外出動禁止決議(参議院本会議);1954(昭和29)年6月2日
自衛隊の海外出動を為さざることに関する決議

本院は、自衛隊の創設に際し、現行憲法の条章と、わが国民の熾烈なる平和愛好精神に照し、海外出動は、これを行わないことを、茲にあらためて確認する。
 右決議する。

…勿論現在PKO活動で自衛隊は海外に出動しているのだが。

自衛権の解釈は国外の情勢も密接に関係している。例えば自衛隊の前身の警察予備隊朝鮮戦争がきっかけだった。日本は基地として利用され、攻撃を受ける恐れもあったからだろう。

…現在の日本は竹島を韓国に強奪され、北方領土はロシアに居座られ、尖閣諸島には支那が侵略の野望を公然化しているのが実状だ。これらの安全保障上の脅威から日本の国家主権、領土、領海、国民の生命・財産を守る為に今までの方法で不可能ならば新たな方法を見つけて実践するしかない。

勿論一番後腐れ無いのは改憲して自衛軍の保持と集団的自衛権(の保持と行使)を明文化する事だが、改憲はすぐに出来ないから応急処置といった所なのだろう。閣議決定解釈改憲はあくまで応急処置で改めて改憲案を出して国民投票にかけるというならば、賛成する意味はあるだろう。

尚、憲法前文には以下の表現がある。


平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。

真っ先に変更すべき部分である。この部分や9条改正に反対の人々に聞きたい。

尖閣諸島を侵略しようと企む支那竹島を不法占拠している韓国の公正と信義とは何で、それは日本の安全保障上どんな役に立っているのか?

また、他人の公正と信義に信頼して貴方は自分の預金通帳と印鑑を他人に預けられますか?