不定期連載・東京裁判に毒を吐く その4

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東京裁判に毒を吐くのも四回目だが、今回は弁護人の知られざるファインプレーを述べたい。

東京裁判の裁判長を勤めたのはオーストラリアのウィリアム・F・ウェッブである。この当時のオーストラリアは白人至上主義の反日国家であり、それ故に昭和天皇の戦争責任に最後まで固執していたのはオーストラリアであった。

裁判官はマッカーサーが任命、被告の弁護団は日本人弁護団アメリカ人による補佐弁護団がこれに能った。
アメリカ人の弁護団が付いたのはニュルンベルク裁判との大きな違いでニュルンベルク裁判では被告の弁護はドイツ人弁護人のみが行ったが、東京裁判では戦勝国から弁護団が出た。これは「勝者による一方的な裁き」という批判を封じる為だったそうだが、アメリカ人弁護団の中には日本語の判る者もいたというから人選についてはある程度の配慮があったとも考えられなくもない。

さて、裁判は実際には冒頭でいきなり荒れた。日本弁護団副団長の清瀬一郎弁護人が裁判長忌避動議を持ち出したからだ。これは強烈な先制パンチであった。

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※右側の人物が清瀬弁護人。左側を人物は首席検事を務めたキーナン検事。

…ウェッブはニューギニアにおける日本軍の戦争犯罪の捜査・調査を行い、オーストラリア政府への報告も行っていた。つまり既に裁判に対して特定の利害関係があり、ウェッブが裁判長では公平な裁判が出来ないと主張したのだ。

これは近代法に基づいた裁判ならば当然の主張である。裁判長たる者が自ら捜査した案件を裁くのは公平性を害するどころか前近代的だと言っていい。

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…要はTVドラマの「遠山の金さん」を思い浮かべて貰えればいい。ドラマでは「町奉行遠山金四郎」は「遊び人の金さん」という町人に変装(?)して事件の捜査・調査を行い悪党の屋敷に乗り込んで悪党共を叩きのめす。そうして捕まった悪党共をお白州で自分で裁いてしまうが、ウェッブはコレと大して変わりない。言うなれば「東京裁判の実態は時代劇ドラマのお白州並み」だったのだ。
いや、ドラマでは遠山金四郎は被害者にも落ち度があれば見逃さず温情判決だが、しっかり裁いていた。だがウェッブは連合国の戦争犯罪は不問にした。現実の裁判はドラマ以下だった…

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この動議は残念ながら却下された。理由は「裁判官はマッカーサーによる任命の為、裁判官の忌避は許されない。」と言うものだった。
…最早説明不要の不当なロジックだったとしか言えまい…

もう一つ冒頭で清瀬弁護人が主張したのは「東京裁判を行う権限の根拠を明らかにせよ。」というのがあった。言い直すとAC級戦犯(平和に対する罪、人道に対する罪)を裁く権限が東京裁判にあるのかと言うものだった。

これには裁判官も絶句した…!と、言うか連合国にはこの質問に対する答えはなかったのである。この質問一つで裁判は数日休廷に追い込まれたと言うから普通の裁判ならここで決着したのだろう。清瀬弁護人の明らかな一本勝ち!
…とはならずウェッブ裁判長は開廷と共に「弁護側の異議は却下。却下の理由は後々説明」と議論を棚上げして裁判を続行した。裁判そのものの管轄権を明らかにせず裁判を行ったのだ。近代法を前提にするなら有り得ない事である。

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因みに「管轄権」は最後まで明らかにされずに判決は下っている。アメリカ人弁護団のデービッド・スミス弁護人でさえ「管轄権も明らかに出来ない裁判は進行させてはならない。」と憤慨して抗議したが、これもウェッブは却下している。連合国はマッカーサー作成の「東京裁判条例」を東京裁判の法的根拠としたが、これも事後法であった。

つまり清瀬一郎弁護人は冒頭の質問で裁判には勝っていたのだ。但しそれは通常の近代法に基づいた裁判での話であって、相手が近代法裁判を装ったお白州以下のレベルの裁判擬きではどうにもならなかったのだろう。惜しむべき事で合った。