憲法9条が憲法違反?


…思わず唸ってしまうケント・ギルバートさんの主張である。

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http://news.livedoor.com/article/detail/10634811/

…ケントさんは

集団的自衛権、個人的自衛権、これは両方とも国際法で認められているものであって。日本にもあるんですよ」

「そして(日本の)憲法前文を読みますと『憲法は国民を守るためにある』と。その上で、憲法第9条は『しかし、武力は使わない』と言っているんだけれども。前文と国際法から考えれば、憲法第9条自体が、憲法違反だと思っている」

と、 25日深夜に放送の「朝まで生テレビ!」で主張した。

…筆者如きが言及するまでもないがケントさんはアメリカでの弁護士資格がある。法律のプロだ。その意見にはそんじょそこらのタレントが素人目線で語るのとは雲泥の差がある。しかも彼は日本に帰化している訳ではないのだから、例えば安保法がどうあれ直接の利害は彼自身には余りない。岡目八目で意見が言える立ち位置に居ると言える。安保法の議論は国会で決着したとは言え、反対派がそれで諦めて受け入れる筈もない。賛成反対いずれにしても彼の意見には先入観を排して耳を傾けるべきであろう。

ケントさんの主張する「集団的自衛権、個別的自衛権、どちらも国際法で認められており、日本にもある」と言う点だが、これについては戦後日本が主権を回復したサンフランシスコ平和条約を見れば一目瞭然、第5条に日本が集団的自衛権及び個別的自衛権を保持している事が明記されている。

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またその基になっている国連憲章51条には武力攻撃を受けた国が国連安保理が必要な措置を取るまで集団的自衛権及び個別的自衛権の行使が認められている。日本も国連加盟国である以上この条項が適用されて当然である。

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問題は憲法前文である。議論の前提として憲法前文も憲法の一部である以上、法的性格があり、これを改正するには憲法96条の手続きによらなければ改正出来ない、と言うのが衆目の一致した見解の様だ。…とは言え、憲法前文と言う物が「憲法の原理や理想を抽象的に言明したに過ぎず、具体性を欠くこと、前文の趣旨は本文の各条項において具体化される物」である以上、憲法前文のみを根拠に何らかの権利を主張しても裁判でそれが認められる可能性は低いと言わざるを得ない。

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日本国憲法前文

米独立宣言(1776年)
米合衆国憲法1787年)?
リンカーンゲティスバーグ演説1863年
米英首脳による大西洋憲章(1941年)
米英ソ首脳によるテヘラン宣言(1943年)
マッカーサー・ノート(1946年)

の寄せ集めともコピペとも揶揄される存在ではあるが、例えば

「われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し…」

と、言う一節がある。

要するにこの憲法は他国との協調による平和と日本国への「自由」がもたらす恩恵を確保した上で、政府の行為が原因となる戦争(つまり侵略戦争)を繰り返さない様にする、と前文で述べているのである。

その「自由」の恩恵を国民が享受するには当然ながら「日本国の独立」が保障されていなければならない。他国に抑圧、征服、占領された状態で「自由がある」とどうして言えるか?つまり日本国憲法が存在するには日本国の独立が大前提なのである。更に

「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」

と、あるがこれに日本だけが対象外だなんて言える筈もない。当然ながら日本国憲法は日本人に「平和のうちに生存する権利」を保障する物だと言える。そういう前文の趣旨から考えれば憲法が国家の独立を守る為の手段を禁じていると解釈するには無理がある。憲法9条もそう解釈するべきであり、そうである以上「自衛隊違憲ではないか?」等という議論は意味がない。

そう考えればケントさんの言う「憲法9条が憲法違反」と言うのは前文の趣旨をそう読むならば正論であると不肖筆者は考える。勿論前述の様にこれだけでは法的根拠として不十分である、と言うならば憲法13条の幸福追求権、または98条2項にある「国際法の遵守」を根拠にすれば十分であろう。特に憲法98条2項での政府解釈は「国家の存廃に関わる条約は憲法より上位」である。サンフランシスコ平和条約で日本の領土が規定され、それ故日本は自国の法律で自国の領土を定義していない事、また歴史的経緯から見てもこの条約が政府の言う「国の存廃」の「存」に該当するのは明白である。

と、なれば安保法の違憲性なんて議論も遥か彼方に吹き飛ぶし、そもそもこんな矛盾欠陥だらけの憲法をいつまでも後生大事にする理由もない。やはり憲法9条は改正するべきである。