再審請求に同一裁判官が再び関わる事の妥当性

※通常の再審請求の流れ。
 
これは「法律の盲点」なのか?再審請求を退けた裁判官がその後の第二次請求の審理に再び関わる。法律上は「規定がない」との事だが弁護団が指摘する様に「公正な審理が行われない可能性」もあり得る。この件では高裁が該当裁判官異動させて事実上弁護団の要求を受け入れたのだが…
 

「法律で禁じなければ」大崎事件弁護団が指摘 大阪高裁、再審棄却の裁判長変更(西日本新聞) - Yahoo!ニュース 滋賀県で1984年、酒店経営の女性=当時(69)=が殺害された日野町事件を巡り、14年前に大津地裁の裁判長として第1次再審請求を退けた長井秀典判事が、第2次請求を審理する大阪高裁の裁判長に交代したリンクYahoo!ニュース

 

この一件、1984年に滋賀県で起きた殺人事件で第一次再審請求を地裁で裁判長として棄却した裁判官が第二次請求では高裁で裁判長として審理を担当する事になった、と言うものだ。再審請求を潰す為の意図的な人事、と弁護団が思っても無理もないが、そうでないとしても第三者目線でも「公正な審理が行われない可能性」と受け取られかねない。

 

刑事訴訟法では下級審での通常裁判に関わった裁判官が上級審で同一事件の審理に関わる事を禁じているが、再審請求の審理についての規定はないのだと言う。しかも最高裁が「禁止の対象外」とする決定を出しているのだ。だが、だからと言って「何でもあり」と言う訳にもいかない、と言う意見にそれなりに理があると言える。

 

法学的にはこの様に直接の条文が存在しない場合、類似の条文を適用する「類推解釈」と言う法解釈の手法がある。が、この手法は「罪と罰は予め法律に明記されなくてはならない」とする「罪刑法定主義」に反するので刑法では禁じられている。一方、「拡張解釈」と言う手法は刑事事件でも認められている。窃盗罪の言う「罪物」に電気を含めたのがそれだ。刑法245条にはわざわざ「電気は、財物とみなす」と規定されているのは先に判例でその旨が判示され、後から付け足した為である。

 

この一件の場合、刑事訴訟法は「手続法」であると言う事、そして弁護団の主張は有罪が確定している元受刑者(この滋賀の事件では当人は既に亡くなっており、遺族が再審請求をしている)の利益に直結する事案、と言う事を考えれば類推解釈だろうが拡張解釈だろうが禁止する理由はない。寧ろ過去の最高裁の決定の方が「問題あり」と見る事だって出来る。その意味では今回高裁が当該裁判官を審理から外したのは妥当な判断だと言える。

 

だが、現実には再審請求の審理に関わった裁判官が同一事件におけるその後の別の再審請求において再び審理に関わった例や、刑事裁判で審理に関わった裁判官がその事件の再審請求の審理にも関わったと言う例があり、こうなるのは裁判所の意図的な人事ではなく、例え「偶然の産物」であったにしろ、当該裁判官からすれば過去の自らの判断を覆す真似などそうそう出来るものではない。そういう意味ではやはり「公正を欠く」と言わざるを得ない。

 

尤も全うに生活していれば自らが刑事事件の被告人となる事態などまずないだろうが、あらぬ濡れ衣や冤罪の犠牲に自身がなる事だってあり得る。他ならぬ不肖筆者も先日警察に交通違反の濡れ衣を着せられたが、納得いかずにその場で抗弁した所、警察が自らの勘違いを認めて晴れて無罪を勝ち取った、と言う事があった。今回この記事を取り上げたのはそういう事があったからだが、裁判所と言えども所詮はお役所である。中々出てこない「闇」もこの様な形で「ある」と言えるだろう。他人事、と簡単に片付ける事なく油断しない様にしなくてはならない。そういう意味での「教訓」と言える内容のこの記事であった。