仁義なきスーパーバトル

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※対立の構図。

関西スーパー経営統合を巡るゴタゴタが最高裁で判断される事になった。どういう結末になるか、非常に興味深い案件であると言えるだろう。


https://news.yahoo.co.jp/articles/b731c7519dd1d8af0232d6421263751f837b14b5

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※最近の経緯。

ゴタゴタの発端はオーケーが関西スーパーの買収を提案した事だった。これを良しとしなかった関西スーパーは資本業務締結していたH2Oリテイリングの傘下入りを株主総会で諮るとした。株主総会ではこの案の可決に出席者の持ち株の2/3以上の賛成が必要だった。そのまま株主総会で白黒付けて済む話…の筈がある一株主の不可解な行動のせいでややこしくなってしまった。

この株主、山口県のスーパーの副社長だと言う。社長の代理で出席し、議案には「賛成」の委任状を提出したまでは良かったが、本人が「成り行きを見たい」と傍聴ではなく総会に参加し、問題の議案の投票を「白紙で」した事が問題をややこしくしてしまったのだ。

会場でも「白紙投票は棄権」とアナウンスされていた。が、それでもこの副社長は白紙投票した。普通に考えれば「棄権」だが、投票後にこの副社長、「賛成の意味での白紙投票だった」と投票内容の訂正を申し出、それが認められた為、議案は賛成が2/3を僅かに越え、可決とされた。

勿論オーケーは異議を主張、純粋に投票用紙をルール通りにカウントすると「僅差で否決」になった為、この副社長の行動をどう扱うのかで議案の可否を左右する事態になってしまったのだ。しかもこの副社長、株主の会社の代表権まであったらしく、話が余計に複雑になってしまい、泥沼のスーパーバトルは法廷での決着になったのだ。

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※地裁ではオーケー勝訴。

一審の神戸地裁ではオーケーの言い分を認める判決が出た。問題の副社長の行動は「棄権」と判断された。事前に提出していた委任状は「撤回された」と言う判断だ。やはりこの副社長が自社で対外的な代表権を持っていた事が重視された様だ。

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※高裁では関西スーパー勝訴。

だが、大阪高裁は一転関西スーパー勝訴の判決を出した。副社長は一貫して「誰の目から見ても明らかな賛成の意思表示をしていた」事を重く見た結果だ。公平に見ればどちらの主張にも一理あり、難しい判断にはなる。

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最高裁の責任は非常に重い。

…と、裁判所の判断も正反対だが、更に厄介なのはこういうケース、法律の規定が「ない」事だ。株主総会での投票の形式等の規定はあっても、投票後の票の取り扱いまでは規定していないのだ。議長の裁量、とも解釈出来るが、そもそも委任状を持参して提出しておきながらその委任状の内容と異なる投票をする奴など想定していなくても無理はない。「統一した解釈」などある筈もない。オーケーが「許可抗告」を申し立て、大阪高裁が許可した為、決着は最高裁で下される事になった。

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※どういう判断をする?

オーケーが行った「許可抗告」とは「特に重要な法令解釈」や「判例違反」が問題になった場合に高裁の許可を得て最高裁に抗告するもので、今回のケースは前例がないが、株主総会での投票の意思表示に関わる重大案件なだけに最高裁による統一見解が必要、と言う事で高裁も許可したのだろう。

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公職選挙法67条。

この様に法律で明確な基準がない場合、似たケースの法をベースにして考える事がある。「類推適用」と言うが、例えば公職選挙法67条。この規定では明らかな無効票でない場合、投票人の意思が明確であれば有効票となる様にする決まりになっている。この規定を類推適用するなら問題の副社長の意思は明白なので関西スーパーに有利な判決になり得るが、一方で投票の形式もまた明白で、「白紙投票は棄権」と再三周知されていた。そこを重視するならオーケーに有利な判決になり得る。最高裁の判断が注目されるが、現時点で確実に言えるのは「どちらが勝っても後味が悪い結果しか残らない」事と「混乱の原因となった副社長の責任は重大である」と言う事だろう。この副社長もわざとやった訳ではないのだろうが、曖昧な行動は時としてこういう大変な事になる。キチンとした意思表示をしなければならない時は毅然と意思表示をする。非常に重要な事である。