金星に生命体が存在する?

 

※地球に最も大きさや組成が近いのが金星。
 
「明けの明星」「宵の明星」とも呼ばれ、太陽、月に次いで明るい天体である金星。地球と大きさも比重も殆んど変わりなく、「双子惑星」とまで言われる程だが、現在の所、生命体の存在は確認されていない。だが、
 
「金星に生命体が理論上存在出来る」
 
と言う説が発表されたと言うのだ。一体どういう事なのだろうか?
 

 

 

 
※地球と並べてみるとその大きさが極めて近いのがよく判る。
 
「太陽系内での生命体存在の可能性」と言うテーマでは専ら火星がメインで、次いで土星の衛星タイタンや木星の衛星エウロパ辺りがその候補として挙げられる事はあっても「金星に生命体の可能性」は殆んどと言っても良い位顧みられなかった。その理由は簡単である。

※金星は岩石ばかりの荒涼とした惑星だった。
 
金星は分厚い大気に覆われている為、外から地表の様子を窺う事は不可能だ。勿論既に金星の大気圏内に探査機を突入させ、地表の様子を探るミッションは行われている。その結果判った事は…
 
地表の温度は摂氏430度を越え、気圧は90気圧。これは地球では深海900mでの水圧に匹敵する。大気の成分はその殆んどが二酸化炭素。その上大気圏中層には硫酸の雲が存在し、そこから硫酸の雨が降っている。…それが金星の姿であった。勿論液体の水など存在出来る筈もなく、地表は果てしなく岩石が広がる荒涼とした惑星だったのだ。
 
※探査機が明らかにした金星表面の様子。
 
…少なくとも地球上に存在するどんな生命体であっても金星で生存する事は不可能。そう考えられた為、「金星に生命体の可能性」は殆んど考察される事すらなかったが、金星の大気成分の研究結果からその可能性がある、と言う説が出てきたのだ。
 
その根拠はアンモニアの存在。アンモニアは水素窒素の化合物だが、金星に水素は殆んど存在しない為、アンモニアは存在出来ない、とされていた。材料が無ければ作りようがないのだから当然であろう。だが、実際に金星の大気からアンモニアは検出されていると言う。これが謎を呼んだ。その説明として出てきたのが「生命体によるアンモニア生成説」と言う訳なのだ。
 
アンモニアがあれば硫酸を中和する事も可能で、その結果酸性度は地球の生命体でも適応可能なレベルにまで低下させる事が出来ると言う。また、金星の表面温度は摂氏430度を越える、と言ったが、金星の大気圏内には気圧や温度が地球環境に極めて近くなるエリアが存在する事も判っている(ただしそこは硫酸の雲の真っ只中だが)。従って自らアンモニアを生成し、大気圏内の一定のエリアを浮遊し続ける事の出来る生命体であれば「理論上は」金星に存在する事も出来る、と言う事になる。だが、そんな都合の良い能力を持った生命体などあり得るのだろうか?
 
※金星大気の様子。
 
実は「いる」のである。それも人間の身近な所に。人間の胃の中には自身でアンモニアを生成し、人間の胃酸を中和する能力のある微生物が存在しているのだと言う。この微生物と同様の能力を持ち、かつ金星の環境でエネルギー源をどの様に確保するのか?と言う問題さえクリア出来れば微生物程度であれば「理論上」金星に存在する事も可能、と言う事になる。…あくまでも「理論上」の話だが。
 
※金星には未曾有の暴風が吹き荒れている。
 
だが、実際には生命体の存在は困難を伴う。金星には「スーパーローテーション」と呼ばれる暴風が吹き荒れている。その勢いたるや秒速100mにも達し、4日で金星を1周してしまう程だ。勿論地球上こんな暴風が吹いたなど聞いた試しはない。金星では地表50km程の高度では気温75度約1気圧、55kmで気温27度約0.5気圧と判明している。従ってこの範囲内であれば地球によく似た環境があると言える。が、微生物程度の大きさの生命体が存在するとしてスーパーローテーションの風に吹かれ続けてこの高度を維持できるのだろうか?仮に高度60kmまで吹き上げられれば-10度、0.2気圧だが、高度40km地点に下ろされると気温143度、3.5気圧となる。気圧の変化は兎も角、気温の変化には耐えられそうもない。まぁ、クマムシの様な「クリプトビオシス」の能力でもあれば生存出来る可能性もあるにはあるが。
 
いずれにしてもこの説を提唱した科学者自ら民間の金星探査プロジェクトでその仮説を実証すると言うが、これで本当に金星に生命体を発見できれば大偉業となる。可能性は高いとは言えないが、他にも「生命活動の痕跡ではないか?」と言われる様な現象が金星では観測されている。例え微生物でも生命体は生命体。期待はしても良いのではないかと思える。結果が楽しみではある。